日比野庵 離れ

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TOP > 未分類 > 総理の一字 〜鳩山首相考〜

総理の一字 〜鳩山首相考〜   2009.11.03

1.エンドレス政権交代 

先日16日、首班指名を受けて、鳩山首相が誕生した。恒例(?)の総理の一字をエントリーする。

総選挙前から、その宇宙人な発言でなにかと物議を醸していたけれど、この日、衆議院(定数480)で327票、参議院(同242)でも124票を獲得して首班に指名された。

さて、鳩山首相を表す一字なのだけれど、その前に、これまでの総理の一字を振り返ってみたい。

小泉元総理の一字は「信」。言ったことはやる。とにかくやる。言ったことを実現するためには手段を選ばないところはあったけれど、それでも言ったことはやった。

安倍元総理は「国」。日本を愛し、日本の「国」としての形、フレームを作ろうとした。やはり、重要法案を次々と成立させた手腕はもっと評価されていいという思いは今でも変わらない。

続く、福田元総理の一字は「安」。安心の「安」であるし、民を安んずるの「安」。総理在任当時は、何もしない総理だとか、何かと叩かれたけれど、最近になって、当時のサブプライムを奇禍とする海外からの圧力に対して、最後は政権を放り投げる、巴投げに打って出て、日本を守ったのではないか、と囁かれるようになった。

そして、麻生総理の一字は「照」。世界恐慌になろうかという危機に対して、IMFへの1000億ドルの供与や、新幹線外交、八面六臂の活躍で、世界経済の崩壊を食い止め、下支えした。まさに、日本が世界を「照」らしていた。

さて、鳩山首相の一字は何かというと、「漂」という字が浮かんでくる。文字通りクラゲのように「ただよう」。

一連の発言や、動きをみても、鳩山首相には主体性が感じられない。何かと人任せ。首相の専権事項でもあるはずの組閣人事でさえ、小沢幹事長に案を出してもらう始末。

どこか、下々から献上されたものの中から気に言ったものを選ぶだけの印象を受ける。自分では何も決められないのではないかとさえ。

やはり、鳩山首相自身に、未来をどうしたい、日本を何処に持っていきたい、というようなビジョンが極めて希薄なのではないかと思える。言動にとても場当たり的なものを感じる。

政権を取ったら、こうしたい、ああしたい、という明確なビジョンもないのに、政権を取ってしまった場合、次にどういう行動をとるのだろうかと言えば、大抵は、今までやってきたことを「繰り返す」ことが多い。

すなわち、「政権交代」を何度でもやるということ。もちろん政権を投げ出して本当に自民党に政権を渡すという訳じゃない。過去の自民党政権が行ってきたことを、ことごとく「否定」してみせることで、心情的な「政権交代」をいつまでもやり続けるだろう、ということ。

だから、八ツ場ダムの建設中止にしても、Co2削減目標25%減にしても、どんなに知事から反対されても、どんなに財界からクレームが来たとしても、大して意に介さないかもしれない。

自民党を否定することが、鳩山政権にとっての「政権交代」だから。迷惑な話ではある。

「政権交代」なぞ、もう成し遂げてしまって、過去のものとなった筈なのに、その先を考えていないから、本人がそれに気づくまで、延々と深層心理下の「政権交代」を目指すことになるのではないか。

しかも、深層心理下の政権交代を、殊更に印象付けようとすればするほど、前政権のやり方を否定せざるを得なくなるから、畢竟、麻生前政権の真反対の政策を行う可能性が高い。事実、経済対策なんかは、緊縮財政路線を取ろうとしているから、麻生政権とは正反対の方向に進もうとしている。

だけど、麻生前政権がやってきたことが適切で、理に適っていればいるほど、それを否定することには、無理がある。このままでは、鳩山政権は早晩、行き詰る可能性が高い。

夏休み最終日は、選挙と共に終わった。やり残したことはない筈。予算手つかず、もう知らん。どうにでもなれだぁ、が、15531回もループするのは勘弁して貰いたい。あれもこれも未経験だからといって、それがどうしたの、と開き直らないことを望む。



2.無責任宰相ハトラー

いろんな試行錯誤の中で失敗することもあろうかと思います。是非、国民の皆様にも御寛容を願いたいと思っております。何せまだ、ある意味での未知との遭遇で、経験のない世界に飛び込んでまいります。政治主導、国民主権、真の意味での地域主権の世の中をつくり上げていくために、さまざまな試行実験を行ってまいらなければなりません。従いまして、国民の皆様方が辛抱強く、新しい政権をお育てを願えれば、大変幸いに思っております。

鳩山内閣総理大臣記者会見より 平成21年9月16日


出だしから、何やら弱気な発言で締めくくった就任記者会見。正直この発言はいただけない。こんな原稿を誰が書いたのか。官僚が書いたのなら問題だし、本人が書いたのであれば、もっと問題。

尤も、先の総選挙では、鳩山首相は、長野県飯山市の会合で、世襲が日本の政治をゆがめてきた、と言いつつ、自分は大目に見て欲しいなどと発言していた。どこかそれに通ずるものを感じないでもない。

だけど、たとえ本音がそうであったとしても、総理大臣として発言すべきセリフじゃない。

何よりも、今の日本や日本を取り巻く世界の情勢下で、試行実験を行う余裕があるとは思えない。

こんなことでは、国を背負うことの意味を理解していないと疑われても仕方がない。

先月の総選挙で、自民党は「責任力」を訴えていたけれど、そろそろ、その意味が多くの国民にも分かってくるのではないかと思われる。

つまるところ、責任力とは、「自らの行為が如何なる結果を生むのかを見通す力」だと言い代えてもいい。何が起こるか全く分からないでは、対策も立てられないし、どう対応すべきかを考えることさえ難しい。そんな状況では、誰だって責任は持てない。

国防や防災対策だって、実際に起こる確率は低いけれど、いつか起こるかも知れない、と最悪を想定するから対策できるのであって、その結果を想定できることが前提にある。地震対策ひとつとっても、震度5を想定するのか、震度7を想定するのかでその対策は当然違ってくる。避難場所、支援物資補給はもとより、建築物の耐震基準をどう決めるのかにまで、その対策は及ぶ。

結果が見えない人は、責任を取ることができない。

だから、自分に結果を見通す力がない、と思うならば、大目に見てくれ、等と甘えるのではなくて、結果を見通せる人の助言を素直に聞くべき。それが責任を持つということ。

ましてや、世界の大国である日本の首相とならば言うまでもない。

既に、財界を始めとして、色々なところからクレームの声が上がり始めている。藤井財務省の円高容認発言に対して、トヨタ幹部が「大変困った発言だ」と苦言を呈しているし、温暖化ガス25%削減についても、電力総連から、各家庭に対して強制に近い対策が必要だから、実現できるか疑問だと言われている。

円高を放置して、いくつかの企業が倒産したり、本社を海外に移転して税収が減るような事態を招いたり、温暖化ガスの25%削減が達成できなくて、結局、高い金を出してCo2排出枠を買うことになるかも知れないことも想定しているのかどうか。それをも覚悟の上で発言しているのかが問われているということ。それが責任力。

本当に、そこまで覚悟しているのであれば、非難する彼らを説得し、納得させるだけの長期展望と戦略が必要だし、そのための説明がないといけない。

もしも、そういった事を全く考えてもいなかったとしたら、無責任宰相と云われることを甘受しなくちゃいけない。

その答えのひとつとして、内閣人事がある。鳩山政権での大臣は、これまで、民主党の次の内閣で名を上がっていた大臣と大きく違っていて物議を醸したけれど、実は副大臣や政務官レベルになると、少し話は違ってくる。このあたりについては別の機会に譲る。

また、無責任でも、うまくいくことがあることはある、それは、物凄い豪運、武運を持っているということ。たとえば、本人が何も気にせず適当にやっているように見えるのに、周りが勝手に自滅してくれるような場合とか。

小泉元総理も、不幸中の幸いが結果オーライになっていた宰相だったけれど、鳩山首相はそれだけの運を持っているだろうか。

勝ちに不思議の勝ちはあっても、負けに不思議の負けはない。そのことを国民はあらためて知ることになる。



3.脱・官僚 

 「鳩山氏は極めて興味深い世界観の持ち主だ。一つとして同意する点はない」

                             米政府元高官

アメリカが慌てている。鳩山首相のニューヨーク・タイムスに寄稿された論文を皮切りとして、その外交スタンスが反米的だと知れ渡るようになったから。

6月17日夜に、民主党の山岡国会対策委員長と会談したアメリカのキャンベル国務次官補は、会談の中で「日本の政権が代わり、日米関係がどう変化するのか心配している。鳩山政権は、アメリカと中国のどちらが重要だと考えているのか」と、なんともストレートに質している。それだけ不安に思っているのだろう。

いくら、鳩山首相が、政権担当は未知との遭遇だ、と、云い放っても国内では許されるのかもしれないけれど、外交の場にあたって、そんなことを言うようでは、相手にされないだけ。

先般の総選挙後に行われた、オバマ大統領との電話会談では、外務省の役人を同席させず、民間の通訳を使ったと言われている。更には、秘話装置などの盗聴防止への配慮も皆無であったとも。

また、「米流時評さん」によれば、鳩山論文を寄稿した、ニューヨークタイムズのOP-ED欄(政見投稿欄)は「外野的立場の人間が政府にもの申す」として捉えられることが多く、そこに出ただけで「米国政府に対する攻撃的意見」と受け止められる、という。

特に、外国首脳とのトップ会談を行うに当たっては、機密を保持するためには、盗聴防止への配慮は勿論のこと、その通訳には、守秘義務が徹底している、外務省の通訳を使うべきではなかったのか。

もちろん、その民間通訳会社との間で守秘義務契約を交わしているだろうけれど、それでも相手国の立場からしたら、トップ会談で民間の通訳を使われてしまうことを、どう受け止めるだろうかと考えてみれば、相互の信頼感を醸成する上で失点になることは避けられない。

鳩山首相としては、「脱・官僚」ということで、単なる、官僚を排除した政治スタンスのパフォーマンスだったのかも知れないけれど、外交的配慮を欠くその姿勢は却って国益を毀損することになる。

鳩山政権においては、どことなく、その外交経験の無さが、足を引っ張る予感がするのは気のせいだろうか。

鳩山政権が外交においても、悉く「脱・官僚」を貫くのであれば、官僚・スタッフレベルでの所謂、事務次官協議というものの意味合いが大きく変わってくる可能性がある。

なにせ、官僚と政治家トップとの間で意思疎通が行われないのだから、いくら双方の国のスタッフが一生懸命に交渉して、ようやく合意間近に漕ぎつけた案件であっても、トップ会談で簡単に反故にされることだって、理屈としては在り得る。

トップ会談は、非常時で緊急を要する時とか、スタッフレベルでどうにも調整がつかないくらい拗れた案件に対して、政治的解決を図るときにこそ、威力を発揮するのであって、いくら政治主導だからといって、官僚すべてをスポイルするようなやり方は、却って弊害の方が多くなると思われる。



4.政治主導と官僚政治
 
こうした、官僚を半分スポイルするような形での外交を行う場合、相手国の対応として考えられることは二つある。

ひとつは、官僚を一切咬ませず、政治家同士だけで全てを決めるやり方。もうひとつは、政治家をお飾りとして雛壇に祭り上げて、肝心なことは、全部双方の官僚同士で決めてゆくやり方。

つまり、外交交渉の窓口を何処に置くのか、ということ。

前者のやり方で巧くいくためには、双方の政治家同士で、盤石な信頼関係があることと、政治家が官僚を含めて、完璧に国政を掌握して、政治家の言う言葉、合意した事項については、完璧にその約束を果たすという政治手腕が必要とされる。

それに対して、後者の場合は、官僚同士の水面下での交渉がかなりの部分を占め、官僚のトップが事実上、国政を担う政治家になるという、密室政治に近い形になる。

だから、鳩山政権が、脱・官僚を唱え、それを実現するのであれば、官僚をスポイルするのではなくて、官僚を密接な関係を持ち、逐一情報を吸い上げ、スタッフレベルでの協議内容を十分踏まえた上で、トップ会談なり、外交交渉に臨まなければ、期待する成果は上げられない。

あまつさえ、意味不明な発言を繰り返して、昨日言ったことを、今日翻すなんて、鳩左ブレなことが、国際間合意において行われるのであれば、あっという間に信頼を失うことになる。それも国家的信頼を。

米国のカート・キャンベル国務次官補は、ワシントンの「戦略国際問題研究所(CSIS)で行った講演で、米政府の政策ではなく個人的意見だと強調した上で、「もし民主党に対して忠告するなら、官僚を敵視するようなことはやめた方がいい。個人的な経験から言うと、日本の官僚は非常に優秀だ」と発言している。これは、前者のやり方で巧くいくための条件でもあるし、今の鳩山政権への懸念をはっきりと表明したと考えていい。

もしも、それでもなお、こうした、官僚をスポイルした外交を続けるのであれば、アメリカを始めとして、世界各国は、前者での外交交渉を諦め、後者での交渉に重点を移してゆく可能性も出てくる。

つまり、脱・官僚を唱えながら、実態は、官僚が全てを決めてゆく、これまで以上の官僚政治の出現。そこでは、もはや政治家による合意文書は美辞麗句で彩られ、肝心なことは何一つ書かれないという、空虚な見せかけだけの政治になる危険さえある。

「ミスター年金」の異名を持つ長妻昭厚生労働相が17日厚生労働省に初登庁したときに、拍手や花束贈呈などのセレモニーなどが無くて、冷戦ムードだとか、長妻大臣が「“もうちょっとこうしたらいいのではないか”と、皆さんと“衝突”と言ったら過激だが、そういうことを申し上げるかもしれない」なんて発言したとか、報道されているけれど、本当にそうであるなら、前者の、ある意味理想的な、政治家による外交への道は遠いを言わざるを得ない。

だけど、実際はどうかというと何ともいえないところがある。それは閣僚人事を見ることによって、少し垣間見ることができるように思われる。



5.「虚」の大臣、「実」の副大臣と政務官
  
鳩山政権の閣僚は、野党時代の民主党の次の内閣と大きく違うものの、副大臣や政務官レベルになると話は違うのだけれど、この点について触れて置きたい。


まず、鳩山政権の副大臣名簿は以下のとおり。


 【内閣府】
 大島敦   早大法卒。党「次の内閣」経済産業副大臣、国対副委員長。
 古川元久  東大法卒。党年金調査会長、税調副会長。
 大塚耕平  早大政経卒。党役員室次長、政調副会長。

 【総務】
 渡辺周   早大政経卒。党筆頭副幹事長、衆院議院運営委員会理事。
 内藤正光  東大院修。党選対委員長代理、参院総務委員長。

 【法務】
 加藤公一  上智大理工卒。党「次の内閣」法務副大臣、国対副委員長。

 【外務】
 武正公一  慶大法卒。党選対委員長代理、党「次の内閣」外務副大臣。
 福山哲郎  京大院修。党選対委員長代理、政調会長代理。

 【財務】
 野田佳彦  早大政経卒。党国対委員長、幹事長代理。
 峰崎直樹  一橋大院修。党「次の内閣」財務担当、参院財政金融委員長。

 【文部科学】
 中川正春  米ジョージタウン大卒。党「次の内閣」財務担当、衆院財務金融委員会理事。
 鈴木寛   東大法卒。通産省課長補佐、党「次の内閣」文部科学副大臣。

 【厚生労働】
 細川律夫  明大法卒。弁護士、衆院環境委員長。
 長浜博行  早大政経卒。党「次の内閣」環境担当、同国土交通担当。

 【農林水産】
 山田正彦  党「次の内閣」農林水産担当、同厚生労働担当。
 郡司彰   明学大社会中退。党参院国対委員長、参院農林水産委員長。

 【経済産業】
 松下忠洋  京大農卒。内閣府副大臣、衆院内閣委員長。
 増子輝彦  早大商卒。福島県議、党「次の内閣」経済産業担当。

 【国土交通】
 辻元清美  早大教育卒。党政審会長、国対委員長。(社民)
 馬淵澄夫  横浜国大工卒。会社役員、党政調副会長。

 【環境】
 田島一成  同志社大院修。滋賀県議、党政調副会長。

 【防衛】
 榛葉賀津也 米オタバイン大卒。党参院国対委員長代理、参院外交防衛委員長。


URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009091800356 より抜粋


民主党の次の内閣で、副大臣又は所管担当だったのがそのまま副大臣として任命されているケースが多いことが分かる。


次に、政務官の人事とプロフィールを列挙する。


内閣府大臣政務官
・泉健太     参議院議員秘書/福祉施設職員
・田村謙治    大蔵省(現・財務省)課長補佐/衆議院議員政策秘書
・津村啓介    元日本銀行職員

総務大臣政務官
・小川淳也    元総務省課長補佐
・階猛       弁護士/みずほ証券株式会社総合企画部経営調査室主任研究員/新生銀行法務部次長
・長谷川憲正   郵務局長/郵政審議官/フィンランド大使

法務大臣政務官
・中村哲治    前衆議院議員/京都大学法学部卒

外務大臣政務官
・吉良州司    日商岩井株式会社医療システム部長
・西村智奈美   新潟県議会議員/大学非常勤講師/新潟大学大学院法学研究科法学修士修了

財務大臣政務官
・大串博志    金融庁銀行監督局銀行監督調査官
・古本伸一郎   全トヨタ労連顧問/トヨタ自動車社員

文部科学大臣政務官
・後藤斎     元農林水産省
・高井美穂元   ダイエー株式会社社員/早稲田大学第一文学部英文科卒

厚生労働大臣政務官
・山井和則    立命館大学政策科学部大学院講師/奈良女子大学生活環境学部専任講師/松下政経塾塾員
・足立信也    筑波メディカルセンター病院診療部長/国立霞ヶ浦病院消化器科医長/筑波大学外科助教授

農林水産大臣政務官
・佐々木隆博   元北海道議会議員
・舟山康江    農林水産省/北海道大学農学部農業経済学科卒

経済産業大臣政務官
・近藤洋介    日本経済新聞記者
・高橋千秋    参議院議員井上哲夫公設第1秘書/株式会社新東通信本社開発部長

国土交通大臣政務官
・長安豊     三井物産社員/会社役員/東京大学工学部卒
・三日月大造   JR西日本/JR西労組専従役員
・藤本祐司    UFJ総合研究所国土、地域政策部主任研究員

環境大臣政務官
・大谷信盛    元衆議院議員/ジョージワシントン大学大学院国際関係論修士課程修了

防衛大臣政務官
・楠田大蔵    住友銀行行員/衆議院議員羽田孜秘書/衆議院議員古賀一成秘書
・長島昭久    中央大学客員教授/米外交問題評議会上席研究員/東京財団主任研究員

民主党HPより作成


政務官レベルとなると、元官僚はもとより、日銀の元職員であるとか、大学病院の助教授であるとか、それなりの経歴の人物を配置していることが分かる。

こうして見てくると明らかなように、大臣の人事はオールスター内閣だと揶揄されるように、派閥や連立与党との均衡人事であるのだけれど、副大臣は、ネクスト内閣に選出されていた人物を配置し、政務官に至っては、元官僚や専門家に近い人を当てている。

副大臣以下のレベルでは、非常に実務に重点を当てた人事をしている。だから、いわば大臣は見せかけとして置いておいて、その実、副大臣以下の人事は、官僚を御することができそうな人材を置いている。

大臣を「虚」として、副大臣以下で「実」を取るという人事のようにも見える。

こうした人事を、鳩山首相自らやっていれば、なかなかのものだと言えたのかもしれないけれど、このあたりは「剛腕」幹事長の意向が働いているのだろう。やはり、したたかである。

政務官クラスに元官僚や専門家を配置しているということは、そのレベルまでは、少なくとも官僚の言っていることは理解できる筈。だから、その分、官僚とじっくり協議したうえで、現実に即した政策を立てるだけの力量はあると見ていいだろう。

その意味において、人事を見る限り、政治主導を行える体制だけは整えつつあると見ていいように思う。

元々、民主党は、脱・官僚、政治主導と言ってきたから、こうした人事を行うのは、当たり前なのかもしれないけれど、そうなると、やはり何よりも大事になるのは、政治が何をやらんとするか、という大方針。政府の意向、党の公約が正しいものであるかどうかが鍵を握る。



6.あたしが全部決める
 
大臣は兎も角、副大臣以下がしっかりしていれば、それなりに政治は巧くいくのではないか、という考えも当然あるはずで、それはそれで理解できるものがある。

だけど、それは、党内や官邸の風通しが良く、若手の意見であったとしても、たとえそれが、執行部に批判的な意見であったとしても、頭ごなしに押さえつけることなく、十分に議論して汲み取れるところは汲み取るという自由な気風と器があって始めて、成り立つもの。

剛腕幹事長は、9月18日に、政府・与党の政策決定システムとして、副大臣が主催しする「各省政策会議」を新設すると通達した。

これは、政府機関で、副大臣のほか政務官、各省に対応する衆参両院委員会の与党委員で構成し、その他の与党議員も参加可能な会議で、政府側が政策案を説明して意見交換するほか、与党議員が政策提案を行う場としている。

ただ、政策の決定権は持たせていないから、政策案を出させることはするけれど、それを採用するかどうかは、政府官邸が決める、という性格のもの。

そして、もうひとつ注意する点がある、それは、民主党が議員立法を原則禁止し、それを全国会議員に通知したこと。

これは、自民党政権での慣習であった、党内の事前審査を経ないと政府が法案を提出できない弊害を除くためのもので、族議員のせいで法案がゆがめられたり、提出が遅れたりすることを無くすためだとしている。

その反面、改正臓器移植法や水俣病救済特別措置法なんかのように、超党派や党内有志による立法活動ができなくなる、という指摘もされている。

これらを考え合わせると、政策の最終決定権の殆どは政府首脳、官邸が握ることになり、かなりの権力・権限がそこに集中することになるのだろう。

政治主導といえば、聞こえはいいけれど、実態は、ほんの少しの官邸の人達だけで政策が決定されるシステムになってしまう可能性は念頭においておくべき。

副大臣以下の事情通・政策通の議員がいくら現実的な政策を出したとしても、その政策を採用するかどうかは、政府首脳の胸先三寸であり、かつ、有志議員の立法も認めない制度になるということ。

政府首脳の考えが、そのまま国の政策になるがゆえに、党内の風通しの良さの有無が決定的な意味を持つことになる。民意なり、有識者の意見がどんなに政府に上がったところで、政府がその意を汲むこともなく、自分に都合の良い政策だけを採用するのなら、民主主義は形だけのものになりかねない。



7.自由な議論

「全員野球には反対だ。あしき体質を引きずった人をベンチに入れるべきではない。そういう人はスタンドで見ていればいい。」

河野太郎 於:6/19 日本記者クラブ「候補者討論会」

自民党総裁選に立候補している、河野太郎氏の発言が少し話題になっている。世代交代を訴えるあまり、党の重鎮を厳しく批判して、引退勧告まで仄めかしているのがその理由だという。

自民党は、色々な考えの議員が集まっているせいか、党内での足の引っ張り合いが激しいとも言われている。最近では、麻生前総理に対する、所謂「麻生降ろし」が取り沙汰されていた。

筆者も、一致団結でやらなければいけないときに、何を足の引っ張り合いをしているのか、と思っていたけれど、やはり、民主主義を標榜するのであれば、たとえ足の引っ張り合いに見えたとしても、そうでないよりはずっと良いのだ、と思うようになった。

勿論、誹謗中傷や人格攻撃、つまらぬ揚げ足取りなどは論外だけれど、異論は異論としてあって良く、また、それを自由にぶつけ合って、堂々と議論をすべきなのだ、と。

それとは反対に、自分と違う意見のものを問答無用で封殺するようなやり方は、権力を持っているものだけが全て正しいという全体主義に繋がる危険を秘めている。

なぜ、こんなことをいうかといえば、今回の選挙において、民主党のマニフェストに対して、意見を述べた民主党所属の都議会議員を除名する云々の動きがあったから。

東京都議会の土屋議員は、然る民主党のマニフェストに、党の重要政策としている筈の、夫婦別姓などが掲載されていないことなどを、氏のブログや、WILL10月号への寄稿にて指摘した。

その寄稿を民主党の首脳部は問題視して、「倫理委員会」なるもので審議するようだ。中には「土屋を除名しろ」なんて声まで上がっているという。

土屋氏は、「マニフェストには「正直に」政策を書くべきだと言ったまでだ。・・・重要政策が、それも党内で議論のある政策が、一行もマニフェストに書かれていないことに「意義あり」と言うのは党員として当然の責務だ。」と、一歩も引かない構え。

こんなことで「除名」云々というのが本当なのであれば、自民党総裁選候補の河野太郎氏のように、執行部に対して、「悪しき体質を引きずった人はベンチに入るべきではない。」なんて言おうものなら、ただではすまない筈。

それにしても、土屋議員の意見は、ただ「政策は正直に書くべき。」といっただけのことであって、異論ですらない。それなのに、これだけの理由で除名とは極端に過ぎる。党議拘束なんかの比じゃない。

これが民主党全体の体質だとは思わないけれど、政権与党についたのだから、批判されるのは当たり前だと受け止めて、粛々と政治を行なっていただきたい。



8.剛腕幹事長の狙い

政権発足から1週間たって、混乱が続く鳩山民主党政権。

ニューヨークでの日中首脳会談後の松野官房副長官のグダグダな会見はいうに及ばず、亀井金融相のモラトリアム法案や、子供手当ての所得制限とか、閣内不一致と言っていいような状態が続いている。

これほど、混乱を見せているにも関わらず、剛腕幹事長は事態の収拾には何も動いているように見えない。どこ吹く風。まぁ、党幹事長であって、閣僚ではないから、関係ないといえばそれまでと言えばそれまで。

だけど、9/23,24のエントリー「「虚」の大臣、「実」の副大臣と政務官」」と「あたしが全部決める」で触れたように、剛腕幹事長の息の掛かった閣僚人事や議員立法原則禁止の通達等を考えると、ひとつの流れというか、ある狙いがあるようにも見える。

それは、多少穿った見方かもしれないけれど、混乱を放置することによって、財界や官僚が泣きついてくることを待っているのではないか、ということ。

八ツ場ダムの件もそうだけれど、民主与党の打ち出す政策によって、早くもいろいろな痛みが見え始めている。特にCO2の25%削減に至っては、各企業とも死活問題に関わってくるから、財界からなんとかしてくれとの声も出始めている。

経団連の御手洗会長は、米中の責任ある参加を強力に働きかけてほしいと言い、岡村会頭も、国民的合意形成を、と注文している。

国際公約してしまった以上、具体的にどうするのかという方策と、それに対する国民の理解を得るようにするべきだ、とプレッシャーを掛けてきている。

おそらくは、各地方選出の民主党議員に対しても、現場からどんどん突き上げがあるものと思われる。

だけど、残念ながら、下っ端議員(失礼)に物申しても埒は開かないだろう。閣内でさえ、意見が一致しないのに、与党とはいえ、大臣でもなんでもない議員が多少吠えたところで、何かが変わるとも思えない。

なにせ、議員立法からして禁止されている。また、新設される「各省政策会議」において、官僚と協力したりして、良い政策を提案出来たとしても、政策決定権は与えられていない。それ以前に「脱・官僚」と称して、官僚が口出すことを嫌って、そうさせないようにしているから、政策立案自体がとても難しい。

となるとどうなってゆくのか。権力を官邸の少数に集中させているから、尚のこと、官邸に言うことを聞かせられる議員が居たとしたら、彼が最大の力を得ることになる。

身も蓋もない言い方をすれば、次の参院選が近づくにつれ、党の金を左右できる権限を持った議員が力を増してくる。

官邸の首脳に睨みが利いて、かつ、党の金を融通できる権限を持った議員となると、そう何人もいる筈がない。

今のままの混乱が続くようなら、折角、麻生前政権の経済政策によって、回復の兆しが見えた日本経済は、また不況に逆戻りする。そして、その可能性は非常に高い。

だけど、剛腕幹事長は、逆にそれを待っているのではないかと思われる。財界や官僚が泣きついてくることを待っているのではないか。

そして、何でも言うことを聞くから、と彼らに泣きつかせておいて、ゆっくりと腰を上げて、党首脳部に話をつけて、現実路線への転換による政治的解決を狙っているようにも思えてくる。それこそが脱・官僚、政治主導なのだ、とかなんとか言って。

今の様に、官僚を排除するやり方は、話し合いを拒否する態度とよく似ている。つまり、昨年、国会で、自公連立与党になんでも反対するか、審議拒否をして、国会を空転させたやり方と同じ。

そして、現場から地元議員をいくら突き上げたところで、政府首脳が聞く耳を持たず、何の意味も為さないのであれば、これも国会を空転させた去年と同じことになる。

昨年、国会を舞台とした政局が、今は、各省庁に舞台を替えて行なわれている。そして、おそらくは国民に対しても。

今でこそ、民主党のその浮世離れした政策に不安の声が上がり始めているけれど、こうした、政治の空転を梃子にした、現実路線への転換が、来年の参院選までに行われれば、参院選で民主党が勝利する可能性も高まってくる。やれば出来るじゃないか、とか、やっと気づいてくれたか、と世論は安心する。

だけど、それまで、割を食う国民と経済はもつのだろうか。



9.友愛と強制力 

 「自分が描く『友愛精神』にのっとった国際関係の話を申し上げた」

於:NY 鳩山首相

初のNYへの外遊をした、鳩山首相は、日中首脳会談後、こう語った。

「友愛」とは以前から常々述べていたことだから、友愛発言そのものは驚くにはあたらないけれど、「友愛」という鳩山首相の概念が如何なるものかについて、ちょっと確認しておきたい。

24日に行われた、国連総会での鳩山首相演説から一部引用する。


議長、
 日本が国際連合への加盟を承認されたのは、1956年12月18日です。その時の首相が、我が祖父、鳩山一郎でした。
 日本の国連デビューとなった第11回総会で、当時の重光葵外相は次のように述べています。
 「日本の今日の政治、経済、文化の実質は、過去一世紀の欧米及びアジア両文明の融合の産物であって、日本はある意味において東西の架け橋となりうるのであります。このような地位にある日本は、その大きな責任を十分自覚しておるのであります」と。
 当時の首相である祖父・一郎は「友愛」思想の唱導者でした。友愛とは、自分の自由と自分の人格の尊厳を尊重すると同時に、他人の自由と他人の人格の尊厳をも尊重する考え方です。
 重光葵の演説にある「架け橋」という考え方が、一郎の友愛思想と共鳴していることは実に興味深いことです。

 それから53年後の今日、同じ国連総会の場で、私は日本が再び「架け橋」としての役割を果たさんことを、高らかに宣言したいと思います。


鳩山首相の言う「友愛」とは、「自分の自由と人格の尊厳と同時に、他人の自由と人格の尊厳をも尊重する考え方」ということのようだ。そして東西両文明の架け橋となるのだ、と。

言葉の上では、何やら凄そうにも聞こえるのだけれど、その自分と他人の自由と尊厳を尊重する、という点に注意したい。

「自由を尊重する」というのは素晴らしいことなのだけれど、自由そのものの中身に踏み込んでいかないと少し問題が起こる可能性がある。

もしも、自分の自由と他人の自由同士がぶつかったらどうするのか。例えば、指定席が一つしか残っていない、満席の特急があったとする。それに自分も乗りたいのだけれど、他の人もそれに乗りたい場合はどう解決するのか。自分の自由と他人の自由がぶつかっているという場合の対処。

電車くらいであれば、自分が譲って一本後の電車に乗る、なんてことで調整がつくかもしれないけれど、そうした、時間軸をズラして調整できない局面ではどうするのか。

ぶっちゃけて言えば、ある国(仮にC国とする)が、対岸の別の国(仮にT国とする)を欲しいと思って併合しようと動き出したとする。C国はT国を併合したいのだけれど、T国はC国に併合されることは望んでいない場合はどうするのか。双方の国は、互いに自分の自由を主張しているけれど、双方を満足させることはできない。電車みたいに、国には次の便はない。

そうしたとき、C国とT国の二国間の調整に任せるのか、隣国はただ眺めているだけなのか。仮にT国が、併合は厭だと、隣国(仮にJ国とする)に救援を求めてきたらどうするのか。二国間で話し合って決めてください、とでも言うのだろうか。

「友愛」の定義に従えば、C国とT国双方の自由と尊厳を尊重しなければならないから、必然的にそうなってしまう筈。

だから、リアリズムの国際政治の中で「架け橋」になる、というのは、物凄く大変なことで、単に互いの言うことを理解できるだけでは務まるものじゃない。

時には、力づくで言うことを聞かせるだけの強制力が必要になることもある。強制力の例として、分かりやすいのが軍事力や経済力。時には技術力も。

そうした自国の強みとなる部分を云わばカードとして使って、したたかな駆け引きを駆使し尽くして、漸くのことで「勢力均衡」的な平和が維持されるのが、今の国際社会の現実。ましてや「架け橋」なんて、その遥か先にある話。

理想が高いのは誠に結構なことではあるのだけれど、それを実現してゆくための段階を踏んだ現実的なプランがしっかりないといけない。

国際社会は、子供手当のようにバラマキさえすれば、平和になるわけじゃない。



10.友愛社会の理想的前提

 個人でできることは、個人で解決する。個人で解決できないことは、家庭が助ける。家庭で解決できないことは、地域社会やNPOが助ける。これらのレベルで解決できないときに初めて行政がかかわることになる。そして基礎自治体で処理できることは、すべて基礎自治体でやる。基礎自治体ができないことだけを広域自治体がやる。広域自治体でもできないこと、たとえば外交、防衛、マクロ経済政策の決定など、を中央政府が担当する。そして次の段階として、通貨の発行権など国家主権の一部も、EUのような国際機構に移譲する……。

祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印 鳩山由紀夫 Voice+ 2009年9月号
 

これまで、いろいろと鳩山新政権について見てきたけれど、無駄を省くとは言うものの、具体的に何をしようとしているかは漠としてよく見えない。

政権交代こそが最大の目的だったのだから、仕方ないのかもしれないことは了だとしても、いつまでも世間は待ってくれないことは自覚すべき。

今は、閣僚が好き勝手にも見える発言をして、混乱を招いているけれど、遠からず、鳩山首相の指導力が問われることになると思われる。

鳩山首相は「友愛」を掲げているけれど、この「友愛」を国家戦略に据えた場合、注意すべきことがある。それは、友愛自身は、必ずしも成長戦略を必要としないということと、他者が全て善人である、という前提に立っていること。

他人や自分を尊重するのに、富はあってもいいけれど、別に無くても構わない。金持ちでもそうでなくても、互いに尊重することだけは等しく出来る。民主党の政策に成長戦略がないと言われるのも、意外とこのあたりに原因があるのかもしれない。

友愛を実現するだけなら、別に経済成長しなくたっていい。だから、緊縮財政路線を取っても平気。

だけど、現世(うつしよ)では、個人のほんのささやかな望みを叶えるのでさえ、お金が要る。だから、個人の尊厳を尊重するのに経済成長を必要とはしなくても、個人の自由を尊重するためには、お金は必要になる。

もしも、そのお金がないがために、誰かの自由が制限されているとするのなら、どうするか。

冒頭に引用した、鳩山首相の論考に従えば、個人で解決できないことは、家庭や地域が助ける、それでも無理な場合は、最後には政府が手助けするということだから、とどのつまり、個人に「ばらまく」ということ。そんな結論に帰着してもおかしくない。

だから、友愛な社会では、経済成長は必ずしも必要としないけれど、結果平等の声だけは大きくなる可能性が高い。

また、友愛社会には、個人が困ったら、周りが助けてくれることが前提になっている点も注意が必要。

確かに家族や親類縁者くらいまでなら助けてくれるかもしれないけれど、それに甘えて何もしなかったら、鼻つまみ者扱いされる。ましてや他人ならどうなのか。それにこの友愛論理は国家間にまで適用しているから、日本の周りの国家全てが性善説で動いていることが前提になる。そこまでいくと、正直ちょっと現実離れしている。

もしも、友愛が国家戦略になって、更に、友愛原理主義にまでなってしまうと、そうした、現実離れした理想を前提とした国家運営を行ってしまう可能性すらある。

それを考えると、やはり国家レベルでの改革ではなくて、本当に身の回りの小さなところからの改革から着手すべきではないかと思う。

(了)


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