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麻生政権の国会戦略 2008.11.03
1.解散するする詐欺
麻生総理は10月30日の記者会見で、解散総選挙について当面先送りする意向を示した。
早期解散するだろうと先走っていた、メディアも民主党も肩透かしを食った。
だけど、それ以前の与党の動きはいかにも総選挙が近いと匂わせるもの。10月13日には麻生総理が広報用の写真ポスターやテレビCMを撮影して「衆院解散近し」との憶測を呼んだ。またそれに呼応したかどうかは分からないけれど、細田官房長官が10月14日、18日と年内解散もあり得るとの見通しを述べていた。
森元首相は10月13日に後援会の事務所を開き、同月17日にはとうとう麻生総理の地元である福岡8区で選挙事務所が開設された。
普通に考えれば、ここまでやれば総選挙は近いと思ってもおかしくない。
選挙が近いともなれば、民主党も何時までも審議拒否ばかりしていると今度が国民より政局か、と思われるから、手のひらを返して、法案の審議に協力することになる。
福田前政権ではあれほど苦労して、全然審議が進まなかった新テロ対策特別措置法改正案はスピード審議。補正予算にも賛成した。
解散するぞするぞとチラつかせるだけでこの威力。解散を匂わせるだけ匂わせておいてやらない。今にして思えば計算づくだったのかもしれないし、ポスター撮影や選挙事務所開設の頃までは本気で解散するつもりだったのかもしれない。
結果論ではあるけれど、民主党は早期解散という幻にまんまと乗せられて、早く解散しろ、総選挙して政権をとらせろ、というそのただ一点にこり固まっていたことになる。
2.麻生・自民党チャンネル
「2ちゃんねるはチェックされてる?」
「いえ・・チェックなんて、あの・・物凄い数ですから、どれも・・ときどき・・そういったのに・あの〜、なに・書いたりなんかすることは・・ときどき・・やったりすることはありますよ。・・2ちゃんねる。あれぁ、なかなかいいとこ突いて・もぉ・・なまじの新聞記事よりよっぽど・・いいとこ突いてますよ、あれぁ・・おぉってのはありますよ。」
昨年、フジテレビ系列の情報番組であるハッケン!!のインタビューで、福田前総理と総裁選戦った後の麻生総理のコメント。
ネット掲示板に集まる知。ネットの集合知が既に新聞を上回っているという認識が麻生総理にはある。
新聞社よりも国民大衆の集合知が上だと思ってる。とすると、政策や本音を語るときにもテレビや新聞記者を相手にするよりも国民に直接語りかけたほうが良いと考えてもおかしくない。
先頃、「ニコニコ動画」に、自民党の麻生太郎総裁を特集した「麻生・自民党チャンネル」が開設された。そこでは麻生総理のメッセージや過去の講演などが視聴できる。
政治家が直接国民に語りかける手段が登場してきた。
ネット動画を政治家が使うのは何も麻生総理だけじゃない。民主党の小沢代表も10月19日にサイバーエージェントのAmeba Studioで開かれたインターネット生放送に出演して若者向けに政権交代の必要性を訴えていた。
ただその中で小沢代表の注目すべき発言として、「政治の細かいことを知る必要はない。自分たちの1票で政権を代えることができる。それだけを分かってもらえたらいい。」というのがあった。
ネットや2ちゃんねるなどでは、この発言を問題視して叩いているものもちらほらあるようだ。ただ、この発言の前に、司会者から政治を全く知らない若者に対してコメントを、と振られていたから、軽いサービスの積もりで、細かいところはいいから、これだけは分かって欲しいという意味での発言だったようにも聞こえなくもない。そうだとすれば多少気の毒ではある。
だけど、同じ質問を同じような生番組で、麻生総理が答える姿を想像してみると、おそらくこんな答えにはならないだろうと思う。麻生総理ならこう応えるのではないかというのを勝手に想像してみる。
「政治が分からないというけれど、ある意味、世間ズレした我々なんかより、皆さんのような若者のほうがよっぽど政治を分かっているんじゃないかと思いますね。日本のマンガやJ-Popなんかは、内容といい、表現といい、今の世の中のありとあらゆることを映し出している。それこそ政治そのものなんじゃないでしょうか。そんなカルチャーに普段から触れている皆さんの、日常生活で思っていること、感じていることを私たちに教えて欲しいと思っています。そのために選挙というものがあるんです。」
こういった受け答えをするのではなかろうか。
劇場型政治とは良く言われることだけれど、ヤジや合いの手を聞いてそれをうまく取り入れながら、科白や演技を変えていくスタイルと、舞台は俺たちプロがやるから、素人は黙って見てればいいんだ、というスタンスの違いと言ってもいいかもしれない。
もしも、麻生総理と小沢党首とで国民に対する思いに違いがあるとすれば、国民、とりわけ若者に対して、彼らを信じているかいないかという点に差があるように思う。
3.本音は直接
解散総選挙が当面先送りになったことがはっきりした今、民主党は審議の一切拒否作戦に戻ることになった。
民主党の輿石東参院議員会長は、早期解散に踏み切らないのなら、与党の提出する法案に対して徹底審議をする、とこれまでの対決姿勢に戻る発言をしているし、自民党の細田幹事長も11月1日に、さいたま市での会合で「がんのように取り付いているのが某党。何でも反対する」と指摘した。
事ここに至ってようやく、自民・民主の政策論争が始まることになる。もし与党が民主党では政権を任せられないのだキャンペーンを張って、与党支持率の回復を目論んでいるのなら、ここからが本番。
その割には、自民党は党首討論を民主党に何度も申し入れているのに、民主党は拒否を続けている。
なればこそ与党は、その討論したい内容や与党の政策を正確に国民に伝えるべく大々的なキャンペーンを張るだろう。民主党が少しも党首討論に応じないことを非難しながら。
なんとなれば、麻生総理は、ぶら下がり取材を拒否して、自民党・麻生チャンネルでのみ自身の声を伝える可能性だってなくはない。もしくはぶら下がり取材、その他会見の最後に「詳しいことは、自民党・麻生チャンネルをご覧になってください。」と付け加えて、そちらに誘導するのではないか。
マスコミに一切語らない情報を、麻生総理自ら、自民党・麻生チャンネルでのみ配信したらどうなるだろうか。対マスコミと対国民とで情報の差別化を図るということ。
自民党・麻生チャンネルでのみ、総理の本音が聞けると評判になったら、国民はマスコミをスルーしてネットから情報を拾うようになる。政治家と国民がダイレクトにコンタクトするから、そこにはマスコミのネガティブキャンペーンの入りこむ余地はない。
ネット動画なんかだと視聴者のコメントも入るから、それを聞いた上でその答えも配信することもできる。実際、総理自ら「普段、私が感じていることなどをお話ししたり、皆さんから頂いた質問に答えるなど、みなさんと一緒に作っていくチャンネルにしたい」と麻生・自民党チャンネルでコメントしている。
開設わずか2日で再生数35万を超えた「麻生・自民党チャンネル」の盛り上がりと、先日の小沢代表のインターネット番組での発言を比較すれば、直接国民に訴えるという点において麻生総理に分があることは明らか。
こうしたいわば、既存メディアの中抜き現象が進むと益々メディアの役割が問われることになってゆくだろう。
4.腰を上げた総理
金融恐慌の嵐が吹き荒れている。アイスランドが国家破綻した。恐慌の嵐はまだまだこれからだとも言われている。
そんな中、麻生総理は緊急市場安定化策を打ち出した。銀行等保有株式取得機構の株式買取りの再開や空売り規制の強化がその主なもの。
今回の緊急対策はこれまでからさらに踏み込んで、保有株式取得機構や日銀に株式買取りの指示が盛り込まれた。要するに株式PKOをやるということ。
これまでは、空売り禁止とか、民間会社の持ち合い規制の緩和など、ある意味民間活力に頼った対策だったけれど、今回は国が主導してPKOに乗り出す姿勢を示した。本腰を上げたといっていい。
にもかかわらず、安定化策を打ち出した10月27日の終値は、バブル崩壊後の最安値をさらに下回って、7162円90銭を記録した。
幾つかのメディアでは、ここぞとばかり緊急対策も効果がないと非難している。
総理は27日の夕方、記者団に「対策を出したから即(効果が出る)という種類のものではない。一喜一憂するつもりはない」と言っていたけれど、実は同日の昼、前場が終わった段階のぶら下がり取材で、こんな発言をしている。
「まあ今、マイナスの話でスタートされましたが、終値は30円のプラスだったろ? そっちも書いてよ。マイナスの話ばかりしたがるのはオタクの習性かもしれませんが、きちんと最後はプラスに出てきているというのは、ま、前場(マエバ)の話ですが、前場(ゼンバ)の話ですが、前場でそういうことになっていますんで・・・」
ここで少し気になるのは、麻生総理自身が日本の民間活力、経済力を少し信じすぎているのではないかという印象があること。
麻生総理は、自分でこうして市場を注視して、すばやく対策を打ち出せば、市場もそれを好感してすぐ反応するのではないか、と期待していたのではないか。
確かに、これまでこれほど市場を気にして対策をうてた総理はなかなか居なかったから、そう思ったとしても無理からぬことかもしれない。だけど、国民はおそらくもっと先を行っている。すなわち、底はまだまだ先だから焦らずゆっくり仕込もう、と。
世界中で火を噴いている金融恐慌。さすがにテレビも連日報道している。だけど日本の世間は表向きは、まだ平静を保っている。騒がない。2003年4月に7607円をつけたときのような悲壮感がない。どこかどっしりと構えてる。
たんに鈍感なだけなのかもしれないけれど、証券会社の個人口座開設が急増しているというから、今がチャンスと思っている人が大勢いるのだろう。
だけどじっくり構えてる。慌てて反応しない。おそらく政府のPKOが効果を出して、日経平均がじわりと、一万円を回復してきたあたりから効果が見えてくるような気がしてならない。
腰を上げたはいいけれど、ここからが本番。国民を信じるあまり浮ついてしまうのはまずい。
5.コップ半分の落とし穴
「コップ半分の水をもう半分しかないと嘆くのではなく、まだ半分あると思う意識の転換が必要だ」
故小渕元首相が施政方針演説の中で「建設的な楽観主義」という意味で使った有名なフレーズ。安倍前総理も自身の支持率が低下したときに「私はコップの中の水を見て『こんなに減った』と思わない。『まだこんなにも残っているんだなあ』と思う」と発言していた。
もしかしたら、麻生総理もそういう具合に考えているかもしれない。
楽観主義の善い所は、楽観が生み出す心の余裕が、良い智慧を生み出す環境を作り出すこと。
よく「借金で首が回らない」という言い回しがあるけれど、始終心配事が気に掛かって悲観的になる人は、それに心が囚われてしまって、そのことしか考えられなくなる。文字通り「首が回らなく」なってる。打開策について一所懸命考えるのならまだいいのだけれど、悲観的になっていると、もう駄目だ、どうしようもない、と言って嘆くばかり。下手な考え休むに似たり。一歩も前進していない。
その点、楽観主義であれば、少なくとも悲観的ではないから、首を自由に回して四方八方を見ながらじっくり対策を考えることができる環境に居られる。ただしあくまでもそうした環境に居られるだけであって、有効な対策を考えつかないかぎり、これもまた何も変わらない。休んでばかりいても前には進めない。
楽観主義も行き過ぎてしまうと、対策を十分練ることをしなくて、甘い見通しで進んでしまったり、脇が甘くなることがある。これが楽観主義の弱点。
組織のリーダーが「コップの水がまだ半分もある」と旗を振るとき、こうした悲観・楽観の特徴をしっかり踏まえた上での発言でないと痛い目に遭うことがある。
それでもさらに気をつけないといけない落とし穴がある。コップの水の見え方は人それぞれだということ。自分と他人は同じ考えであるとは限らない。
いくらリーダーが「コップの水がまだ半分もある」といっても、そうだと思う人もいれば、そうは思わない人もいる。そうだと思わない人が多数を占めていれば、いくら楽観主義で進みたくても現実は思ったようには動かない。他人の心は自由にできないから。
総理が、若者は明るくなきゃいかん、といってすぐに明るくできる人が多ければまだ通用するかも知れないけれど、そうでない場合は現実に明るくできるものを実現して、目にモノ見せないといけない。
だから、口では「コップの水がまだ半分もある」と言ってもいいけれど、現実の政策としては「半分しか」でもなく「半分も」でもなくて、ただ「半分ある」という客観的事実に基づいた冷静なものでないといけない。
総理や組織のリーダーがコップの水の例えを使うときはよくよく注意しないといけない。
6.政局不況
10月30日に正式決定した追加経済対策は、麻生総理が記者会見して国民にその内容を発表した。
内容は総額2兆円の定額減税や高速道路の割引など。高速道路無料化を掲げる民主党の政策をパクッたといわれている。もともと支持率アップのために民主党のイイトコ取りするであろうと予測する向きもあったから別段驚くに当たらない。
問題はこの追加経済対策が国会審議でどうなるか、ということ。民主党はこれまでどおりの審議拒否作戦に切り替えだしている。
そうやって与党を揺さぶろうというのは分かるのだけれど、肝心の拒否する対策案が自分の案をパクッたものもある。それを殆ど自分と同じ案を与党から出したというだけで審議拒否すれば、国民はただの政局に使っていて、国民のことなんかちっとも考えていないじゃないかと呆れられてしまうことになる。自己矛盾のそしりを免れなくなる。
かといって党首討論などで政策論争するかといえば、そうでもなくて、これまで小沢党首はそれを拒否してきた。
大々的に国民の対してぶち上げた追加経済対策が、民主党の審議拒否で店晒しになったらどうなるか。
もしかしたら、市場は催促相場で下げるかもしれない。10月30日には、FRBの利下げと日銀の協調利下げ期待で円安に一旦触れてたけれど、0.2%の日銀金利引き下げを発表した31日の日経平均は反落してる。まだまだ先は分からない。
市場が下げれば、民主党はそらみたことか「解散しないから下げるのだ」と攻撃するだろうし、自民党は「民主党が審議に応じないからだ」とやり返すだろう。
マスコミは麻生内閣を叩いて政権交代だと煽りたて、総理はニコ動や街頭演説で民主党の不義を国民に訴える。
経団連は解散でも何でもして経済対策を進めろと圧力を掛け、中小企業はなんとかしてくれと泣きついてくる。
海外は日本にとっとと対策しろ声を荒げ、国内は倒産企業の続出に怯える。
政府は対策案を次々に出すが全部棚上げされ、国民はようやくねじれはいけないのだと悟る。
政局による不況を招かないことを望みたい。
(了)
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